
かつての装いのまま
美しくも厳しい四季を駆け
晩年を生き抜いた

厚い雲が途切れると
春の足音が聞こえてくる
風はまだ冷たい
雪の降る内はまだ会える
桜を待たずにさよならだ

桜の便りは高原を越えて西へ
厳しい冬は春をより春らしくする
動き出した季節は
高原に風を吹かせ
緑を育てる

またひとつ
春を創っている




本当の最期は夏だった
森を背に
雲と供に
振り返らず

積乱雲の向こう
風が吹いている
空はより高く
森はより深く
福島県を成す浜・中・会津地方
中通りから中山峠・猪苗代高原を抜け,
会津盆地を目指し,新潟を結ぶ磐越西線.
めまぐるし遷移する四季に耐え,
厳しい線形条件を改良し,
ときに通勤客の日常を運び
ときに帰省客の思い出を載せ
夏はより涼しく,冬はより温かく.
過酷条件から快適性を守り抜いてきた.
あいづライナーはその3往復を任され
郡山〜会津若松間を結んだ快速列車.
かつて特急として全国を駆けた485系は,
その類稀な汎用性を生かしライナー運用に就く.
観光のみならず地元通勤客からも厚い支持を得ていた.
その列車も寄る年波には叶わず,
段階的な縮小のうえ最終運行を迎えた.
南東北の山岳地帯を舞台に
485の最後の活躍を追った.

伝統の特急色を纏い
根強い需用を引き出してきたあいづライナー
その系譜は受け継がれることなく途絶える




田畑が収穫を終え
森が葉を落とすと
暦も街も冬支度に入る

中山峠の夕闇
秋の陽はつるべ落とし
通過時刻と日没時刻
それは動と静との交わる場所
いつも気が付くと
夕闇はすぐそばにいた
その気配こそが
冬の足音に他ならない
"ばんさいくだり,接近"
漆黒に飲まれる無線を前に
微かに光るレールを待った
雨の音,土の薫り.
秋になると恋しくなる.
雪が積もってしまえば,
音も色彩もモノトーンに包まれる.
でも季節の旅が好きだ
さようならがないから
冬の遣い
四季と土地と
異なる軸を旅している
磐梯が三度冠雪すれば
間もなく冬が訪れる
冷たい雨と厚い雲の下
長い長い旅の人たちは
また今年も出会った


帰りを待つ街が
明かりを燈す頃


初雪
高原から
冬を載せてきた




北海道の厳冬に辛酸を舐めた485
特急の第一線を退いた後も
本州特有の湿雪を舞台に
その晩年を過ごしていた
冬は視界も物音も消してしまう
かじかんだ手でレリーズを握りながら
列車接近警報の音声に耳をすます
ばんさい
のぼり
せっきん
まさか
定時で来た
ホワイトアウトした森の向こうに
3つの灯火を見た
厳しい環境に挑み続けた485
その最後の姿に惹かれて
悪条件の日はより力が入った


まもなく、風になります。




国鉄の紅い翼
記憶のなかで、いつまでも走り続ける。